1-5. 地球力学と測地学

京都大学大学院理学研究科 福田洋一

「地球力学」という言葉の定義はやや曖昧で, 必ずしもある学問分野を指しているわけではないかもしれないが, ここでは, 地球潮汐, 地球回転, 極運動, 核(コア)のダイナミクス, コアとマントルとのカップリング, PGR(Post-Glacial Rebound : PGR), アイソスタシーなど, 地球の力学(ダイナミクス)に関連した研究分野ということにしておこう. さて, 以上の課題を眺めてみると, これらの研究に必要な観測手段はごく限られたものであり, その多くが測地学的観測手段によるものであるということに気付くであろう. 例えば, 地球潮汐の観測は, ラブ数, 志田数を通して, 地球の弾性的性質を知る上で重要な役割を果たしているが, 観測手段としては, 超伝導重力計や傾斜計, 伸縮計などが用いられている. また, 地球回転, 極運動の観測は, 歴史的にはPZT(Photographic Zenith Tube)などによる天文観測によっていたが, 現在ではVLBI(Very Long Baseline Interferometry)を代表とする宇宙測地技術が観測の主流となっている. さらに, PGRやグローバルな地殻変動の観測にも, 宇宙測地技術や精密重力測定などの観測手段が必要である. 測地学の目的が「地球の形状と重力場, 地球回転, およびその時間的変化を知ること」とすると, その原因, あるいは力学過程の研究が「地球力学」であると理解すればよいであろう.

最近, この方面の研究の1つとして, $J_2$の不規則な時間変化が話題になっている. $J_2$とは地球の扁平率に関連した重力場係数の1つであり, 地球の形は, $J_2$が大きいほどより扁平で$J_2$が小さいほど球形に近い. これまでのSLR(Satellite Laser Ranging)の観測では, $J_2$は時間的にほぼ一定の割合で減少しており, これは最終氷期後のPGRのため, 地球がより球形に戻ろうとしていることで説明されていた. ところが, 最近のSLRの詳細な観測によると, $J_2$の減少の割合は時間的に一定ではなく, それがENSOなどの海洋変動と関連して変化しているらしいというのである. 現在の測地学にとっては, 固体地球による「地球力学」のみならず, 大気や海洋などを含めた「地球流体力学」との関わりも大変重要なのである.

第3部 チャンドラー極運動の謎

第3部 SLR

新第3部 SLRの進展

新第3部 粘弾性変形の理論とその進展