目次 | 第3部 応用編 | ボストーク湖
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1.ボストーク湖とは? 2.未知の微生物 3.Lake Vostokの測地学(1) 4.Lake Vostokの測地学(2)

ボストーク湖 − Lake Vostokと未知の微生物

 皆さんは,ブライアン・フリーマントルという小説家をご存知でしょうか? チャーリー・マフィンという冴えない中年の諜報部員が「生き残るために」活躍するシリーズを書いている小説家ですが,シリーズ物ではない2002年の作品にIce Age(翻訳題:シャングリラ病原体,新潮文庫)という本があります.南極のアメリカ観測基地で発生した奇病と,地球温暖化,未知の病原体が人間の遺伝子に与える影響を,科学と政治の絡みから描いたフィクションですが,まえがきに,次のような言葉があります.「グリーンランドで掘り出されたコア標本からは,14万年前のウィルスが発見されたが,その時点でもなお植物を感染させる力をもっていた.モンタナ大学の科学チームは,南極東部の氷河におおわれたボストーク湖近くの氷床の1万1千フィート下から,プロテオバクテリアと放線菌類につながる50万年前の微生物を発見している.(上記翻訳より)」.

 これはフィクションではなく,実話である.湖水があり,多分,堆積物があれば,極限下で数百万年以上生きてきた生命体がいる.その回収が,生命科学と,遠隔地でのボーリング,惑星からのサンプルリターン技術開発の観点から,大きな話題となり,SCAR(南極科学委員会)は7段階に及ぶScience Planを定めた.地表物質に汚染されないで,湖水と堆積物の回収を行うことが最優先課題である.ボストーク基地で掘り進められてきたボーリングは,湖水に達する直前で,中断している.


図2. ボストーク基地では,3600m以上の氷床コアが掘削されている.採取されたコアを蛍光染色法や走査型電子顕微鏡で調べると,分類学的に異なるグループに属する,形の異なった微生物が見つかる.この写真は,2035m深さで見つかった多数の単細胞の緑藻類の一部である.http://www.ldeo.columbia.edu/ res/pi/vostok/Report.pdf
Lake Vostok Workshop Final Report, "Lake Vostok:A curiosity of a Focus for Interdisciplinary Study ?" のp66-73に転載された
Abyzov, S. S., MItskevich, I. N. and Poglazova, M. N.(1998): Microflora of the Deep Glacier Horizons of Central Antarctica, Microbiology, Volume 67, No. 4, 451-458. から引用した.
なお,モンタナ大学のチームが南極大陸上の微生物研究に取り組んでいてhttp://salegos-scar.montana.edu/ のトップ頁のWorkshopをクリックすると,例えば Life in Antarctic Ice: A Workshop Final Report (sponsored by the National Science Foundation), organizers S. O. Rogers and J. D. Castello, 34p. がダウンロードできる.
NSFはLake Vostok研究助成で成果が得られた折々にPress Releaseを 行っている.例えば,http://www.nsf.gov/od/lpa/news
/press/01/pr0194.htm
は2001年12月5日の発表で "Water, Sediments in Ice-Bound Antarctic Lake May Harbor Unique Microorganisms, Ecosystems" と題して,南極大陸の微生物について,国際共同研究の必要性を訴えている.




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