測地学テキスト 編集後記

日本測地学会創立50周年記念事業の一環として測地学の教科書をつくるという話が出たのは, もう2年ぐらい前のことになります. 測地学会の記念出版物としては, ご存知のように, 20周年の 「測地学の概観」 , 40周年の 「現代測地学」 があります. これらは, いずれも現代の測地学を網羅した大著で, 測地学の研究者や大学院学生にとっては無くてはならない名著なのですが, 大学学部学生の教科書, あるいは, 高校生や一般の方に測地学を紹介する読み物としては, あまりにも敷居の高いものになっています. そこで, 50周年記念事業としては, 一般の方にもっと測地学を知ってもらうための解説・紹介書と, もう1つは, 大学の低学年を想定した教科書を作成しようということになりました. 前者の世話人には, 東京大学地震研究所の大久保修平さんがあたられ, ご存知のように, 朝日選書より 「地球が丸いってほんとうですか?」 という, 大変すばらしい測地学の入門・解説書が出版されております. そして, 後者の教科書がこのCD-ROMテキストという訳です.

教科書の世話人を仰せつかったものの, 私一人ではどうしようもなく, そこで, 日々, 学生と接しておられる静岡大学の里村幹夫さんと高知大学の田部井隆雄さんのお二人に相談し, 企画の段階から執筆編集にいたるまで, ご協力いただくことにしました. ですので, お二人に相談するまでは, 教科書の内容については全く白紙だったのですが, 1つだけ決めていたことは, 紙ではなくCD-ROMにしようということでした. もう少し正確に言いますと, 私自身, 講義や講演の資料作りなどで頻繁にWebを利用するようになっていましたので, CD-ROMで作成したものが, いずれWeb上で公開される形になれば便利だろうなと考えており, この点に関して言えば, この企画は理想的な形で進んだことになります.

教科書の内容については, 里村さん, 田部井さんの講義でのご経験を生かしながら, 「数式を使わず出来るだけやさしく」 とか, 「PC上で読むことを想定して1ページの文字数を制限する」 など, 自主規制を課したものの, 実際に執筆に取り掛かると, これがなかなか難題で, いろいろ不満の残るところとなってしまいました. 一方, 教科書的内容だけで読者の興味を引くことの難しさは最初から感じており, 第3部−応用編では, それぞれ測地学の第一線で研究をされておられる方々に, その内容を易しく書いていただくことにしました. 執筆をお願いした方々には, みなさん, 大変面白い原稿をお寄せいただき, もしこのテキストが広く受け入れられたとすれば, それは, 第3部によるところが大きいと思っています. 実際, 私自身, 第3部の原稿が届いてそれを読むのが楽しみで, そのたびに, 測地学がなんと面白いものかと改めて認識したものでした.

この期に及んでも幾つか不満は残るものの, なんとかCD-ROMの形に漕ぎ着けたことにほっとするとともに, ここまで, この企画を支えてくださった里村さん, 田部井さんはじめ, 著者の方々, また, 測地学会会員各位に改めてお礼を申し上げたいと思います. また, CD-ROM版, Web版の制作がほぼ並行にできましたのは, 大学院生の小林佑輝君と小西康夫君の技量と手助けのおかげです. その他, 研究室の院生・学生諸君にはいろいろ手伝いをしてもらいました. まだまだ残る不備な点はひとえに世話人の力不足によるものですが, それらは今後のWeb版での進化に期待し, この教科書が, 一人でも多くの方が測地学を学ぶ助けになればと願う次第です.

2004年9月

CD-ROM教科書世話人 福田洋一

新装訂版追記

日本測地学会60周年記念事業の一環として, Webテキストで「最近の話題」としていた第3部を改訂することとしました. 初版の編集後記で福田洋一さんが述べられた「今後のWeb版での進化」が最も象徴的に現れたところだと思います. 執筆にあたって頂いた著者の方々, 測地学会会員の皆様には改めてお礼申し上げます. 一方, 基礎的な内容を含む第1部と第2部に関しては, ほとんど変更しておりません. ただし, この10年間での大きな変化の一つにGNSSという用語の登場があげられます. またほかにも新しいSAR衛星や重力観測衛星も打ち上がりました. これらを反映させるために,第1部の各節から第3部の各話題へのリンクも更新しました. また, 2004年版の第3部は10年たった現在でも重要で興味深い話題であることから, この新装訂版Webテキストでもそのまま残しました. CDROM版はもう出さないことからトップページからCDROMの文字も消えました. もう一つの大きな変化は測地学会のロゴで,これは大村誠さんを中心に評議員メンバーで決めたものです.

なお, 今回の新装訂版作成は大学院生の中島悠貴さんの技術と力がなければ達成できませんでした. このWebテキストを通じて, より多くの方が測地学に興味を持っていただければ幸いです.

2015年11月

60周年記念事業世話人 古屋正人