セッション9報告
GPS観測に基づく地殻活動のモデリング


 本セッションは木曜日(10月21日)午後に開催され,多数の聴衆の参加があり盛況であった.口頭発表でキャンセルがなかったことは特筆すべきである.

 本セッションにおけるトピックは,広域のテクトニクスと断層・火山近傍における地殻変動の時空間変化のモデル化という2つに分けられる.

 まず,Thatcherは,合衆国西部の大陸の変形を重力ポテンシャル・エネルギー(GPE)と関連させて議論し,GPEがベイスン・アンド・レインジ地方の変形には寄与していないことを指摘した.

 趙と橋本は,GEONETで得られた日本列島の地殻変動場を議論し,ブロック運動と断層の寄与を考慮した運動学的なモデルを呈示した. 趙のモデルは,断層面に直交する変位の欠損も考慮しているところに特徴があった. 中部日本の変形の大部分は,糸魚川−静岡 構造線ではなく信濃川地震帯と跡津川断層系でまかなわれているとする結論は両者とも一致しており,平原による跡津川断層を横切るGPSトラバース網により観測された局所的な変位場の研究結果とも調和的である. 橋本はまた,GPSから推定されたブロック境界断層のすべり速度が100年間の三角・三辺測量の結果から得られたものより大きいことも指摘した. 

 時間依存インバージョン手法を用いた最新の成果に関する発表は,多くの関心を集めた. Segallはネットワーク・インバージョン・フィルターの基本的概念を示し,地震時の断層すべりや火山噴火に伴う開口変位の時間発展を推定する能力を示した. その成功例として,青木は,1997年伊豆半島東方沖の群発地震に伴うダイク貫入プロセスの解析結果を示した. 小沢は,1998年豊後水道におけるスロー・アースクエイクにおけるすべりの時間発展を明らかにした.

 村上による発表は,非常に刺激的で多くの論議を呼んだ. 村上は,GEONETの3年間のデータから,日本列島全域で位相のそろった季節変動成分を抽出し,この成分の振幅とプレート運動との相関を議論した. 聴衆からは,気象の影響,アンテナの安定性,その他種々の非テクトニック起源の可能性について質問がなされた. ともあれ,村上は地殻変動に見られる短期間の変動について新たな論争を巻き起こすことになった. この変動の性質と原因については,将来いろんな観点から検討していく必要がある.

 本セッションではこのように興味深い議論が行われたのだが,もし本セッションに足りないものがあるとすれば,それは地殻変動を力学的な観点から取り扱った試みであろう. 力学的なモデル化を扱った論文は少なく,運動学的な記述が中心であった. 次の機会までに,力学的なモデル化の研究をもっともっと奨励したい.

橋本 学


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